この記事の結論
・原則課税は、食材の消費税が8%→1%に下がる分だけ差し引ける額が減り、納める消費税が増える。簡易課税は売上だけで決まるので変わらない
・売上2,000万円・店内飲食中心の店の試算では、今は原則課税が年約5万円有利、新税率では簡易課税が年約33万円有利に逆転する
・個人事業主の届出期限は2026年12月31日。簡易課税にすると原則2年間戻せないので、改装や大きな設備投資の予定と合わせて判断する
2027年4月から2年間、食材の消費税が8%から1%に下がる予定です(2026年10月時点で法案は国会で審議中)。
店内飲食の売上は10%のままなので、お客様から預かる消費税は変わりません。変わるのは、仕入で払う消費税だけです。この変化で、課税方式の有利不利が入れ替わる店が出てきます。この記事は、今「原則課税」で消費税を申告している飲食店向けです。
原則課税と簡易課税で、決まり方が違う
→ 食材の税が8%→1%になると、差し引ける額が減って、納める税が増える
→ 仕入に関係なく売上だけで決まるので、1%になっても変わらない
原則課税は実際に払った税を引くので、食材の税が下がるほど納税が増える。簡易課税は売上の消費税の60%を払ったものとみなすので、仕入の税率が変わっても影響がない。この違いが、今回の改正で効いてきます。
試算:売上2,000万円の店
次の条件の店で、新税率が12か月続いた場合を比べます。
売上 2,000万円(税込・すべて店内飲食)
食材の仕入 600万円(今の税込。4月以降は税抜価格のまま税率だけ1%)
家賃・光熱費・消耗品など 770万円(税込・10%)
人件費は消費税がかからないので計算に入りません
| 原則課税(今) | 原則課税(新税率) | 簡易課税 | |
|---|---|---|---|
| 預かった消費税 | 約182万円 | 約182万円 | 約182万円 |
| 家賃などで差し引く | 約70万円 | 約70万円 | 60%で約109万円 |
| 食材で差し引く | 約44万円 | 約6万円 | |
| 納める消費税 | 約67万円 | 約106万円 | 約73万円 |
今は原則課税約67万円、簡易課税約73万円で、原則課税の方が年約5万円有利です。新税率では、食材で差し引ける額が約44万円から約6万円に減り、原則課税の納税は約106万円に増えます。簡易課税は約73万円のまま。簡易課税に切り替えると、年約33万円少なくなります。
個人事業主の場合、2027年は1〜3月がまだ8%なので、初年度の差は約24万円です。新税率が丸1年続く2028年に約33万円の差になります。
この店にとっては、これまで原則課税を選んでいた理由が、新税率ではなくなるということです。
自分の店はどうか:ざっくりした目安
新税率では、原則課税で差し引ける消費税の大半が、家賃・光熱費・酒類・消耗品・設備など10%で払うものになります。食材の分はほとんど残りません。そのため目安は次のとおりです。
※人件費のほか、カード手数料・保険料・利息など消費税がかからないものは入れません。テイクアウトの売上がある場合や、年の途中で大きな設備投資がある場合は、この目安では判断できないので試算が必要です
家賃と光熱費と消耗品で売上の2〜3割、酒類の多い居酒屋でも4割前後が普通なので、店内飲食中心の店の多くは、新税率では簡易課税が有利になります。逆転しないのは、大きな設備投資がある年です。
判断の流れ
いいえ → 簡易課税は選べません。原則課税のままです
※ここ数年で税抜1,000万円以上の設備や建物を買った店は、一定期間、簡易課税を選べない場合があります
いいえ → 原則課税のままです
ある → 原則課税なら投資の消費税を差し引けます。簡易課税だと差し引けないので、投資額を入れて試算し直します
ある → 簡易課税に切り替えても、2027年4月1日を含む課税期間中なら特例で原則課税に戻せる場合があります
ない → 切り替えたら原則2年間は戻せません
届出の期限
| 区分 | 届出の期限 |
|---|---|
| 個人事業主 | 2026年12月31日(2027年分から簡易課税) |
| 法人 | 簡易課税にしたい事業年度が始まる日の前日 例:1月始まりなら2026年12月31日、4月始まりなら2027年3月31日 |
簡易課税にする届出には、今回の改正による期限の延長はありません。いつもどおり、その期間が始まる前日までです。
切り替える前に知っておくこと
原則として2年間は戻せない
簡易課税に切り替えると、原則として2年間(法人は2事業年度)は原則課税に戻せません。新税率の期間は2027年4月から2年間なので、期間とほぼ重なります。その間に大きな投資をすると、投資の消費税を差し引けないぶん不利になります。判断の流れのQ3を入れているのはこのためです。
テイクアウトなどがある店は、2027年中に戻せる特例
飲食料品の販売(テイクアウト・出前・食品の販売)をしていて簡易課税を適用している店は、2027年4月1日を含む課税期間中に「簡易課税制度選択不適用届出書」を出せば、その期間から原則課税に戻せます。この場合は2年間の制限がかかりません。個人事業主なら2027年中が期限です。店内飲食だけの店はこの特例の対象外なので、切り替えたら2年間は戻せません。
法案が成立しなかったら
個人事業主の届出期限の12月31日までに、法案が成立していない可能性もあります。届出を出したあとでも、簡易課税が始まる前日(個人は12月31日)までなら、税務署に取下書を出して取り下げられる扱いがあります。年内に成立しなければ、取り下げるか、税率が8%のままでも簡易課税でよいかを、期限の前に決めることになります。試算を年内の早いうちに済ませておけば、この判断で慌てずに済みます。
よくある質問
- Q. 簡易課税にすると、どの店でも得になりますか?
- A. なりません。家賃や設備など10%で払うものが多い店や、大きな設備投資がある年は、原則課税の方が有利なことがあります。売上と経費の数字で試算してから決めてください。
- Q. 飲食店の簡易課税のみなし仕入率は何%ですか?
- A. 店内飲食は第4種事業で60%です。テイクアウトの1%の売上には別の特例があり、その売上の消費税と同じ額を差し引けます。
- Q. 今は免税事業者です。何か届出は必要ですか?
- A. 基本的には必要ありません。免税事業者は消費税を納めないので、課税方式の見直しは関係しません。インボイスの登録をして課税事業者になっている場合は、課税方式を確認してください。
- Q. 2029年4月に8%に戻ったら、また課税方式を見直しますか?
- A. 見直します。食材の税が8%に戻ると、原則課税で差し引ける額がまた増えます。簡易課税に切り替えた店は、2029年分をどちらにするかを2028年中に試算してください。
まとめ
食材の消費税が1%になると、原則課税の飲食店は納める消費税が増えます。簡易課税は売上だけで決まるので変わりません。売上2,000万円の店の試算では、今は原則課税が年約5万円有利でも、新税率では簡易課税が年約33万円有利に逆転しました。
個人事業主の届出期限は2026年12月31日です。簡易課税にすると原則2年間は戻せないので、2027〜28年の投資の予定と、テイクアウトの有無を合わせて判断してください。仕入の請求額の確認は仕入の「サイレント値上げ」、テイクアウトがある店の実務はテイクアウト・出前がある店の実務にまとめています。
この記事は飲食店の開業・創業融資ガイドの一部です。資金の全体像、物件と設備、創業計画書、融資の申込までを準備の段階順にまとめています。