「フレンチで10年やってきました。品川か目黒で出したいのですが、自己資金600万円で公庫からいくら借りられますか」
城南で独立を考えるシェフから、この質問をよく受けます。ホテルやグランメゾンで10年。ソーシエからスーシェフまで上がった方も多い。技術に不安はありません。
止まるのは、数字の話になったときです。
フレンチは、飲食の中でも初期投資が重い業態です。ガスオーブンや急速冷却機などの厨房機器が高い。グラスと皿とリネンだけで100万円を超える。ワインの在庫も先に要ります。そのうえ城南は家賃が一段高い。だから最初に、借りられる額と総投資の差を知っておく必要があります。
先に結論を3行で。
- 城南で15坪・18席のフレンチを出すなら、総投資は2,300万〜3,500万円が目安です
- 自己資金600万円なら、公庫の融資は1,500万〜1,800万円が現実的なレンジです(実データの倍率は約3倍)
- 公庫が事業計画書で見るのは、客単価より「稼働率」と「原価率」の根拠です
この記事では、城南(品川区・目黒区・大田区・世田谷区)で修行10年のフレンチシェフが独立するときの相場、借りられる額、区のあっせん融資の使い方、事業計画書の数字、修行先との関係整理、相談先の選び方までを順に整理します。
城南でフレンチを独立開業する相場と自己資金|15坪・18席の場合
まず、いくらかかるかです。
私が相談を受ける城南のフレンチは、15坪前後、18席から20席、ディナー中心のビストロかレストランという形が多い。この規模の実感値を並べます。
- 物件取得費(保証金8か月前後・礼金・仲介手数料): 300万〜500万円
- 内装工事費(造作・給排水・空調・電気・ワインセラーの電源): 1,050万〜1,500万円(坪単価70万〜100万円)
- 厨房機器(ガスオーブン・サラマンダー・低温調理器・急速冷却機・製氷機・食洗機・冷蔵冷凍): 300万〜500万円
- 什器備品(グラス・皿・カトラリー・リネン・テーブル・椅子): 150万〜250万円
- ワインの初期在庫: 80万〜150万円
- 運転資金(開業後3〜6か月分の家賃・仕入・人件費): 400万〜600万円
合計で、およそ2,300万〜3,500万円です。
家賃も効きます。駅近の1階で坪2万〜3万円なら、15坪で月30万〜45万円。保証金を8か月で組むと、契約の日に240万〜360万円が出ていきます。ここを軽く見て、内装に回すお金が足りなくなる計画が一番多い失敗です。内訳の全体像は飲食店の開業資金の内訳に、内装見積の読み方は店舗の内装費用|見積書の見方と減額交渉のポイントにまとめています。
自己資金の目安は、総投資の3分の1です。2,400万円の計画なら800万円。ただ、実際には600万円前後でも融資に進む方は少なくありません。そのとき問われるのが、次の見出しの質問です。
修行10年のフレンチシェフが、自己資金600万円で公庫からいくら借りられますか
実データから見ます。
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表)では、開業費用の平均は975万円、中央値は600万円。調達額のうち、金融機関等からの借入が平均827万円、自己資金が平均279万円でした。借入は自己資金の約3倍(827÷279≒2.96)です。
これは業種を問わない平均です。フレンチのように総投資が大きい業態では、借入の絶対額はもっと大きくなります。
自己資金600万円の場合を計算します。
- 自己資金600万円×約3倍=1,800万円(上のレンジの上端)
- 総投資2,400万円(自己資金600万円+借入1,800万円)で、自己資金の比率は25%
- 総投資が3,000万円を超える計画は、600万円では届かず、居抜きで内装を抑えるか、席数を絞る設計に変える必要があります
自己資金の「額」だけでなく、その「出どころ」も見られます。通帳に積み上がった形跡があるか。ここは創業融資はいくら借りられるか、自己資金別に整理した記事と、自己資金の出どころで落ちる人、通る人に詳しく書きました。
なお、借りられる額は「毎月いくら返せるか」で決まります。次で、公庫の枠組みを確認します。
城南で使える創業融資|公庫と区のあっせん融資の組み合わせ
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金
軸になるのは公庫です。制度の上限は7,200万円(うち運転資金4,800万円)。返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で10年以内、据置は最長5年以内です。
利率は、2026年10月1日現在で、創業者の多くが当てはまる区分(無担保・税務申告が2期未済)の場合、基準利率3.85〜5.45%、特別利率A 3.45〜5.05%、特別利率C 2.95〜4.55%。どの利率が適用されるかは、融資の種類と審査で決まります。
申込先の公庫の窓口は、事業所の所在地で決まります。
区のあっせん融資
城南の各区には、区が窓口になって金融機関と信用保証協会につなぐ「融資あっせん制度」があります。区が直接貸すのではなく、利子の一部や保証料の一部を補う仕組みです。
数字が確認できた例として、大田区の「開業資金」を挙げます(区のページの2026年10月1日更新時点)。
- 融資限度額: 2,000万円
- 返済期間: 84か月以内(うち据置は12か月以内)
- 融資利率: 固定で年1.8%以下。区の利子補給が年1.4%で、本人の負担は年0.4%以下
- 要件: 区内に実質的な事業所を置いて開業すること、住民税を完納していること。開業から1年未満の方も対象
世田谷区は、世田谷区産業振興公社が要件と書類を確認してあっせん書を出し、そのあと金融機関への申込、必要に応じて保証協会の審査という順です。区の案内では、融資の実行まで概ね1〜2か月です。品川区の創業支援資金は、代表者本人が予約のうえ来所して申し込む形で、郵送では受け付けていません(令和7年度の案内)。
目黒区と港区にも制度があります。限度額や利率は年度ごとに改定されるので、申込の前に必ず区の最新のページで確認してください。
フレンチの場合の組み合わせ方
目安はこうです。
- 総投資2,400万円なら、公庫1,500万円+区のあっせん300万円+自己資金600万円
- 区のあっせんは時間がかかるので、物件の申込と並行して早めに動く
- 公庫の面談日程から逆算して、区の窓口の予約を先に取る
併用するかどうかは、返済の負担とスケジュールで決めます。城南の和食でも同じ考え方で整理した記事が城南エリアで修行10年の和食料理人が割烹を独立開業するときの創業融資と事業計画書です。川崎側の組み合わせは川崎で修行10年のフレンチシェフが独立するときの創業融資にあります。
フレンチの事業計画書で公庫が見るポイント|コース比率と稼働率
売上の逆算式(18席・ディナー中心)
公庫の担当者は、客単価の高さより「満席が毎晩続く根拠」を見ます。逆算式はこうです。
- 客単価: コース9,000円+ドリンク4,000円=1万3,000円
- 席数と回転: 18席×1回転(ディナーのみ)、稼働率65%で1日11.7人
- 営業日: 月24日
- 月商: 1万3,000円×11.7人×24日=約365万円
ここから費用を引きます。原価率は32%で約117万円。家賃は15坪×坪2.5万円で約38万円。人件費は自分の給料30万円、ホール社員1名、パートで合計75万円。水道光熱費18万円、クリーニング・広告・カード手数料などで35万円。
営業利益は約82万円です。ここに減価償却費(内装1,200万円を15年、厨房機器400万円を8年、什器200万円を5年で月約14万円)を足すと、返済に回せる原資は月約96万円になります。
原価率と返済原資
借入1,800万円を10年で返すなら、元金は月15万円。利息を年4%と仮定すると初年度は月6万円ほどで、返済は月21万円前後です。返済原資96万円に対して、約4.6倍の余裕があります。
では、稼働率を変えるとどうなるか。次の表のとおりです。
| 稼働率 | 1日の客数 | 月商 | 営業利益 | 返済原資(償却込み) | 返済21万円に対する倍率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50% | 9.0人 | 約281万円 | 約25万円 | 約39万円 | 約1.9倍 |
| 65% | 11.7人 | 約365万円 | 約82万円 | 約96万円 | 約4.6倍 |
| 80% | 14.4人 | 約449万円 | 約140万円 | 約154万円 | 約7.3倍 |
稼働率が50%まで落ちても、返済原資は返済額を上回ります。ただし余裕は2倍を切ります。この「落ちても返せる」形をつくるのが、フレンチの計画書の作法です。稼働率を100%で置いた計画は、その場で疑われます。
席数×客単価×回転数の組み立て方は飲食店の売上予測の立て方に書きました。厨房機器の見積の見せ方は厨房機器の揃え方|新品・リース・中古の使い分けが参考になります。
修行10年のフレンチシェフが公庫面談で強調すべき3つのこと
創業計画書の「経営者の略歴等」に、「フレンチレストランで10年勤務」とだけ書く方がとても多い。もったいないです。担当者は、10年で何を任され、どんな数字を扱ってきたかを知りたいからです。
- 役職と持ち場: ソーシエ、スーシェフなど、任された範囲を具体的に。「コース全体の組み立てを担当」と書けると強い
- 数字の経験: 仕入れ、原価管理、仕込み量、客数の規模。「月の客数○○人の店で原価率を○%に管理した」のように書く
- 集客の根拠: 予約客の見込み、これまでの人脈、SNSや予約サイトでの打ち手。ここは感覚ではなく、具体的な手段と数字で
面談で聞かれる内容は飲食店の公庫融資|面談で必ず聞かれる5つの質問と、実際に聞かれた質問25問にまとめています。
修行先とのれん分け・独立の関係整理|フレンチは仕入先とワインの口座が鍵
独立の前に、必ず整理しておくことがあります。修行先との関係です。
- 仕入先: 修行先と同じ業者から仕入れる場合、口座開設は自分の名前で。最初は現金取引から始まることもあります
- ワインの輸入元: 在庫の初期投資が大きいので、取引条件(支払いのタイミング)は事前に確認します
- 店名・屋号: のれん分けでない限り、修行先の名前や似た屋号は使いません
- 顧客リスト: 前の店の顧客情報を持ち出すのは避ける。独立のご挨拶は、店の許可を得てから
- 就業規則: 競業避止の定めがないかを確認します
この整理が曖昧なまま計画書を出すと、面談で「前の店とはどういう関係ですか」と聞かれて詰まります。円満に独立できることも、審査では評価の対象になります。
城南でフレンチ独立の相談は、誰にすべきか
1. 日本政策金融公庫
融資を決める窓口です。事前の相談もできますが、事業計画書の組み立て自体は自分で用意していくことになります。
2. 各区の産業振興の窓口
区のあっせん融資を使うなら、必ず通る窓口です。品川区は来所の予約が要り、世田谷区は産業振興公社が窓口になります。
3. 飲食店に特化した会計士・税理士
事業計画書の数字づくりと、公庫面談の同席まで任せられます。フレンチなら、コース比率・原価率・稼働率の根拠を、融資の担当者が納得する形に整える役割です。当事務所は、融資実行額の4%(最低20万円・税別)の完全成功報酬で、通らなければ報酬は0円です。
よくある質問
- Q. 城南でフレンチを独立開業するといくらかかりますか
- A. 15坪・18席のビストロやレストランで、総投資は2,300万〜3,500万円が目安です。内訳は物件取得費300万〜500万円、内装1,050万〜1,500万円、厨房機器300万〜500万円、運転資金400万〜600万円などです。
- Q. 自己資金600万円でフレンチの創業融資はいくら借りられますか
- A. 公庫総研の調査では借入は自己資金の約3倍なので、1,500万〜1,800万円が目安です。ただし最終額は返済原資と事業計画書の根拠で決まります。総投資が3,000万円を超える場合は居抜きや席数の見直しが必要です。
- Q. 公庫と区のあっせん融資は併用できますか
- A. 併用を前提に計画するケースが多いです。ただし区の融資は金融機関と保証協会の審査があり、世田谷区の案内では実行まで概ね1〜2か月かかります。公庫の面談日程から逆算して、区の窓口の予約を先に取ってください。
川崎・横浜・東京23区で開業予定の方へ
当事務所は川崎駅徒歩8分、飲食店専門の会計士税理士事務所です。品川から電車で10分ほどで、城南エリアの方にも通っていただけます。日本政策金融公庫の担当者と日常的に連携しており、フレンチやビストロの独立を計画段階からサポートしています。事業計画書の作成支援と公庫面談の同席、費用は完全成功報酬(融資実行額の4%、最低20万円税別、通らなければ0円)。オンラインで全国からのご相談も可能です。
この記事は飲食店の開業・創業融資ガイドの一部です。資金の全体像、物件と設備、創業計画書、融資の申込までを準備の段階順にまとめています。